治療方法により成功率が
大きく異なります
根管治療の目的は「痛みを取り除く」ことだけではなく、「根尖性歯周炎の予防と治療」です。
その目的のために必要となるのが「無菌的処置」「適切な根管形成と根管洗浄」「緊密な根管充填と封鎖」です。
これらの処置が正しく行われることで、高い成功率を達成することが出来ます。この「成功率」とは症状がないこと、レントゲン上にて根尖部の透過像の縮小がみられることであり、治療後にこの2つが成立して「成功した」と言えます。それでは日本における根管治療の成功率はどの程度でしょうか?
東京医科歯科大学むし歯外来では訪れた患者における、パノラマX線写真上の根尖部X線透過像の発現率が調査されました(1)。調査した歯において根尖部X線透過像が50%以上認められました。根尖部に透過像があることは根管治療が失敗したことを意味しています。
これらより、日本における根管治療の成功率は30~50%であるといえ、50%以上は失敗していることがわかります。
それでは、海外においての根管治療の成功率はどの程度あるのでしょうか?
Marquisらの研究によると(2)、術前の根尖部に病変が無い場合のinitial treatment(その歯にとって初めての根管治療処置)の成功率は93%と非常に高いものでした。海外における成功率の論文は数多くありますが、いずれも90%以上の高い成功率を示しています。日本の根管治療とは歴然とした差が生じています。
それでは、なぜ日本において根管治療の成功率は低いのでしょうか?根管治療の成功率にかかわる要因を術中・術後で挙げてみます。
術中の一因として、歯内療法の原則である無菌的処置が守られていないのが挙げられます。この無菌的処置にはラバーダム装着が必須となりますが、日本国内の一般歯科医師においてはわずか5.4%しか使用しておりません。歯内療法専門医でさえ25%程度しか使用しないことが分かっています(1)。このような無菌的処置を守らない根管治療は感染経路を拡大し、根管治療の失敗へと繋がります。
次に術後の要因を挙げてみます。根管充填が終了後には支台築造・クラウン(補綴物)における補綴処置を行います。これは、噛めるようにするだけでなく細菌の侵入を防ぎ、再感染を防止する役割があります。アメリカにおける研究データでは精度の高い根管治療だけでなく、精度の高い補綴物を装着することが必要であることが示唆されています(3)(4)。精度の低い補綴物では細菌の再感染により根管治療の術後の成功率に影響が出ると考えられています。
根管治療 | 補綴治療 | 成功率 |
---|---|---|
精密な治療 | 精密な治療 | 91.4% |
精密でない治療 | 精密な治療 | 67.6% |
精密な治療 | 精密でない治療 | 44.1% |
精密でない治療 | 精密でない治療 | 18.1% |
根管治療 | 補綴治療 | 成功率 |
---|---|---|
精密な治療 | 精密な治療 | 81% |
精密でない治療 | 精密な治療 | 56% |
精密な治療 | 精密でない治療 | 71% |
精密でない治療 | 精密でない治療 | 57% |
このように根管治療において高い成功率を求めるためには、徹底した無菌処置を行ったうえで精密な根管治療を行い、精度の高い補綴治療が必要とされます。
これらの条件を整えるためには、診療時間の確保、正しく滅菌処理された器具の準備(必要に応じて使い捨てによる器具の使用)、適切な薬品・材料の使用といった診療の環境の整備とコストがかかります。高い成功率を求める正しい根管治療を行うためには、このような条件を整える必要があります。
しかし、保険診療のみで対応しこれらの条件をクリアするのは非常に困難であり、残念ながら日本の根管治療の成功率を低くしている一因とも言えます。
<参考文献>
(1)須田英明.わが国における歯内療法の現状と課題.日歯内療誌.2011;32(1);1-10.
(2)Marquis VL,Dao T,Farzaneh M,Abitbol S,Friedman S. Treatment Outcome in endodontics;the Toront Study.PhaseⅢ;initial treatment.J Endod 2006;32(4);299-306.
(3)Ray HA,Trope M.Periapical status of endodonticaly treated teeth in relation to the technical quality of the root filling and the coronal restoration.In Endod J.1995;28:12-18.
(4)Tronstad L,Asbjornsen K,Doving L,Pedersen I,Eriksen HM.Influence of coronal restrations on the periapical health of endodontically treated teeth.Endod Dent Traumatol.2000;16:218-221.